Mogicのかんがえをきく

Mogicの考えをお届けするため、代表にインタビュー。
今回は、Mogicならではの経営について訊いてみました。更に、濃厚なロングインタビューになっています。

第四回

経営をきく

経営は
分からないことだらけ。95%は試行錯誤で学んでいる

経営者としての日常

10年かけて自分がやっていた経営の仕事をみんなに分散させた

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今回はいよいよど真ん中の経営についてお聞きしたいと思います。最初はまず軽めなところからということで、日頃はどういう仕事をされていますか?

山根

経営はいろいろありますが、みんなに任せる部分があって、自分の分は絞ってますね。月に1回の経理の締め作業を少しと、月次の決算資料の確認、自社システムの各種データをチェック、CTO(最高技術責任者)や執行役員との話し合いといったぐらいです。
請求書、カード支払、入金は、チーフや執行役員、バックオフィス、会計事務所の方にトリプルチェックしてもらっています。お金の流れは透明化されていますから、役員が自分のために会社のお金を使うとすぐに分かります。というか、できない仕組みになってるんですね。
あとは、毎月の貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算を見ます。昔からデータをとってるので、過去との比較をすることもあります。数字は面白いことが分かったりするので、エクセルで新しい指標を作ったり、シミュレーションしたりです。

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CTO藤井さんとはどういうことを話されているのでしょうか?

山根

藤井がグローバルな最新技術や海外トップエンジニアの動向に詳しいのでひとしきり聞いてから大局観を議論したり、今はまだ知られてないけどこれがメジャーになるだろうとか。あとはサービスのポテンシャリティやメンバの新しい可能性とか、本当にバラバラなのでこれというのを挙げづらいですね。とにかく藤井がエンジニアっぽくないというか、過去に格闘技やってたり、手先が器用でいろんなものを作っているのであれこれ楽しく話しています。

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執行役員のお二人とも話されるのでしょうか?

山根

二人とは週に1回、1時間ぐらい話しています。簡単なアジェンダを作っているのですが、5分ぐらいで終わって、これも脱線につぐ脱線でそれぞれ、気がついたことをあれこれ議論しています。こういう見方もあるし、ああいう風にも考えられるよねといった感じです。経営を意識して話すというより、とりあえず冗談を言いながら話していますね。

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最初に経営でやることを絞られているとのことでした。これはどういう意味でしょうか?

山根

会社を作って5年経ったときに、自分がやっている作業を一度すべてリストアップしてみたんですね。そうしたらいろいろやっていると。これずっとやるのは大変だし、ブラックボックスになりかねないから、毎年少しずつ他チームやメンバに渡していこうと決めて、10年経ちましたから、9割なくなりました。自分がやっていた経営の仕事をチーフや執行役員やシステムに分散させたということです。少し負担は増えるでしょうけど、ずっと先を考えるなら、みんなにとっていいことだと思っています。

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そこまでチーフや執行役員の方にお任せしているんですね。

山根

ずいぶんと昔にスタートアップの出資を手伝っていて、そこで気づいたことがありました。一般的にスタートアップはトップが元気だし、メンバもがんばっている。だけど中間のマネジメントが薄いということです。それはそうですね。トップが引っ張るから、中間のマネジメントはいらないし、育たない。
でも、数年たったスタートアップは任せられるマネジメントが欲しいからといって増資したお金を使う。それはそれでありだと思いますが、最初からマネジメントを育てた方が楽なんじゃないかと思っていたんですね。マネジメントをヘッドハントするのは大変ですし、他の会社で仕事ができてた人はすぐにMogicのカルチャーにフィットしないでしょうし。
だから、はじめからメンバにいつかマネジメントできるように接してきました。面接には一緒に出て、どこを見てどこを見落とすかを共有したり、トラブルが起きたらどう振る舞うべきかを話したりとか。そういうのが10年積み重なりましたから、うまくマネジメントできるメンバが多いと思っています。

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社内に独自システムが多いのですが、それも経営の進め方と関係してるのでしょうか?

山根

最初は一般的なクラウドサービスを使いますが、途中でどうしても効率化や効用が限界に達するんですね。会社を大きな一つのシステムとしたら、1つずつのサービスがボトルネックになります。
ボトルネックを解消しても、また違うクラウドサービスの部分で詰まってくる。それをくり返すと誰かが「ああ、なんか面倒になってきた」というので「じゃあ、まとめて作り直そっか」という感じで自分たちでくっつけて一から作っちゃうんですね。意外なことにそれをやりつづけると、経営の仕事がなくなります。だから、経営の分散化といえるかなと。

経営の醍醐味

会社は、一緒に楽しめる人を集める大義名分なところ

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会社を経営していく醍醐味はどんなところでしょうか?

山根

すごく簡単に言ってしまうと、会社だと知らない人を集めることができるところですね。そこが醍醐味です。会社だと面白い人集まれ!って言えば集まってくれますけど、個人で休日に面白い人集まれ!って言っても集まってくれないじゃないですか。だから会社は、一緒に楽しめる人を集める大義名分なところがあります。

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それが経営する面白さなのですね。反対に経営でやりがいはあるけど、ストレスを感じることもあるのでしょうか?

山根

あんまりないんですけど。でも、やっぱりお金のやりくりを考えなきゃいけない時は大変だなあと思っていましたね。

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これまでやりくりで大変だと思われたことは何回かあったのでしょうか?

山根

一番は自分たちが信じたサービスを作って出した頃ですね。リリースして1年ぐらい全然売れないよねといってぼやいている時、やっぱりこれを止めて次のサービスを作ろうかと話している時、暗中模索する時期が一番厳しいですね。お金がなくなっていきますし、サービスの実績もついてこないと。
当時はイヤだったんですが、不思議と今になると楽しい思い出になっちゃうんですよね。「あの時、無茶してたよねぇ、あはは」みたいにみんなで盛り上がれる思い出なんです。あと途中から、「お金の問題だと錯覚しているからダメなんだ」と気づけましたし。

自ら波乱を起こしていかないと生きていけない

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客観的に見たら大変だと思われるような場面でも、いつも楽しそうだなっていうのは勝手に感じていたのですが、ピンチを楽しもうというスタンスなのでしょうか?

山根

もうこれは個人的な性格の問題ですが、自分は何もない平時の方が弱いと思っているんです。どちらかというとピンチだったり、危機的な状況で活躍できるタイプなので、イキイキしているように見えるんでしょうね。

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安定したくないという気持ちがあるのでしょうか?平時が苦手だから、あえて自分で波を起こしにいくといった感じで。

山根

安定できないんでしょうね。自ら何かを始めて波乱を起こしていかないと生きていけないみたいなところはあります。だから、自分たちのブランドサービスLearnOが売れたり、マネジメント層が安定してきたなと思う方が本当は厳しいかもしれないですね。一瞬やることないかもなって思っちゃうので。
会社の機能として必要なこと、セールス、マーケティング、ブランディング、経理、財務、採用、教育、マネジメント、商品開発、セキュリティ、コンプラとか全部やって整備しちゃったら、これまで一般的な会社がやってないことに挑戦しなきゃいけないじゃないですか。最初それが分からなくて、安定した上でさらに波乱をどうやって巻き起こすのかという話になりますよね。そこを突破するのが厳しい気がします。

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やらなくてもいい状態で新しくやりたいことを模索するストレスということでしょうか?

山根

プロジェクトのゴールがあってスタートポイントが決まっているものは大変かもしれないけど楽だと思うんですよね。だって、やればいいわけじゃないですか。やっている間は楽しいと思うんです。だって、黙々とやれば終わっちゃったりします。終わらなくても、これが何とかなればおいしいもの食べたいよねとゴール設定できるじゃないですか。
だけど、何のゴールも必要ないし、やらなくてもいいんだけどやらなきゃいけないような気がするっていうのは結構大変なんです。会社は社長がトップにいて、次に何をやっていくかは大枠で社長が決めますよね。みんながいいとか悪いとかいいながらついてきてくれたりするわけです。
でも突き詰めると、社長は誰にも言われないわけですよ。「早くやってください」「次を考えてください」って言われない。僕らみたいに自己資本でやっているならなおさらです。ということは、自分で前を向けるように自分を律していくというか、何もないところを一歩ずつ歩かなきゃいけないし、ゴールもないし、ご褒美もないわけですよ。そこを切り開いていく大変さというのはありますね。結局はそれも好きなんですけどね(笑)。

孤独とも、責任が重すぎるとも思ったことがない

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お聞きしていると経営にすごく貪欲なイメージを受けます。

山根

よく「経営者は孤独です」「責任が重くのしかかります」「一歩間違えると踏み外しそう」っていう話があるじゃないですか。思ったことがないんです。孤独だとも思ったこともないし、責任が重すぎてやめたいと思ったこともない。第三者から見るとつらいことも、おそらく楽しめてしまっているから。
もともと教科書やテストといった枠が決まったものをずっとこなすのが苦手なんです。枠がないじゃないですか、経営って。だから、得意な方なんですよ。ゲームでもオープンワールドの方が好きだから。

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だから自分でご褒美を作らなくてもやっていくということですね。

山根

そうですね。少しでも思いついたら、その瞬間にはじめています。思ったらとりあえずやっているんですよね、気づいたら。やっていたら「よく分かんないんだけどなぁ、できない、できない、あ、できた」みたいな感じです。
で、それをみんなに見せたりして面白がってくれたらいいなと思いますけど、出せば出したですぐに飽きられるので、また何か違うものを思いつくんです。よく分からないけど、やってみて出す、そうしてやっぱり行き詰まる。
行き詰まりますけど、同時に何個も進めてますから、こっちが詰まってもあっちをやればいいかなと思いながらかわしていく。違うものをやっていたら急にこっちが進んだりします。だからいろいろやっていますね。そういう感じで最終的につらいってならないんでしょうね。

本質を突き詰めて、とりあえず編み出してみる

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山根さんの中でこうやっていこうというものがあるので、他社の事例を真似てみようというのはないのでしょうか?

山根

会社を設立した当時はどんな会社があるのかなといろいろ見てました。そういうのは見るのですが、でもせっかく自分たちが会社という器を作ってやっていくので自由にやりたいじゃないですか。わざわざ真似するのって面倒だなと思ってました。
まずじっくり観察して分析して仮説を立てて、自分たちなりにコピーするプロセスになりますよね。真似たところで追いつけるわけでもないし、真似し終わった先にどうするのって話になるので逆に面倒かなと。何も考えずに完全コピーすればいいんだよという人がいるのですが、土台や背景が違うのにやってしまうと後が大変だなと思う方なのでやらないですね。
それより、そもそも本質ってなんだろうと突き詰めて、それに対して最短距離で行こうと思うけど世の中にまだ方法はなさそうだから、とりあえず編み出してみるかという方が早くて楽ですね。

経営スタイル山根流

ポジティブになりやすく、ネガティブが出にくい環境をどう作るか

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会社を経営していくにあたり、どこを大事にされていますか?

山根

さきほどお伝えしたとおり、会社って面白い人を集められる場所や権利を持っていますよね。それで一緒にやろうとなったら、やっぱり共に時間を過ごす間に「楽しかったよね、おもしろかったよね、人生で貴重な体験だったな」と思ってほしいじゃないですか。どう感じるかは個人の問題だと思うのですが、それでもはたらく場所は多分に影響してくるので「みんなが楽しめる場づくり」というのを大切にしてますね。
「目標を立てて、あれやれ、これやれ」というのは簡単かもしれないのですが、これも面倒なんですね。どういう面倒くささかというと、ずっと言い続けないといけない大変さです。子育てでいえば、「宿題しなさい、片付けしなさい、お風呂入りなさい」って言い続けるのは大変ですよね。

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それはよく分かります。自然とやってほしいというか。

山根

それよりは自分がやりたくなる場づくりをして自然と宿題をして、食べたら茶わんを洗って、宿題してから、お風呂に入ってくれた方がいいじゃないですか。別に順番はバラバラでもいいのですが、そういう方がいいなと。どうやればいいかとなれば「人間って何だろう、何が好きで何が嫌いで、何に意識的で何に無意識なのか、この人は何が違うんだろう」とより詳しく理解しないとできないですね。
人間は多面的なところがあるから、この局面だとこういう判断をするけど、こういう局面だと違う人格になっちゃうということも当然あり得るわけですね。つまり、局面によってはついうっかり悪さしちゃいましたという人も出てきます。ですから局面がそうさせている可能性や人間の多面性を理解して、ポジティブな雰囲気になりやすくネガティブなインパクトが出にくい環境をどう作ればいいかをすごく考えます。

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一般的な数字での管理というのは考えないのでしょうか?

山根

数字は考えないですね。昔、予算づくりをしてみなさいと言われて、一回やったことがあるのですが、管理するのが大変な割に全然予定通りにならないんです。
当たり前ですよね。予定は未定なわけですから。売上でいえば外部の要因がいっぱいあるからコントロールができないんです。そこに一喜一憂しているんだったら違うことを考えたほうがいいかなと。
だから、数字はあくまでも補助的な装置として結果を見ますけども、大事だと思っているのは一緒にはたらいている人が、「楽しかったよね、成長したな、いいことあった」という気持ちが積み上がってくるようにはどうしたらいいかということですね。そこを考えています。

ちょっとお節介だけど、その人の状況を考えてケアする

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なかなかそういう話は聞きません。そのような経営スタイルになったきっかけはあるのでしょうか?

山根

今の時代って他人を思いやる気持ち、他人をケアするところって割と削れていると思っています。ケアの評価が低いというか。
例えば、電車に乗って他人の足を踏んでも「ごめんなさい」と言わないとします。自分はいいかもしれないけど、相手は削れているわけです。「ごめんなさい」と言ったら、相手はケアされるから、ないがしろ感がなくなって心が戻ってきます。
会社でとりあえず目標数字や業績で強く進めるばっかりだと、他人をどういうふうにケアできるんだろう、自分自身をどうケアすればいいんだろうと考える時間はほとんどないと思います。それは会社が考えることじゃないって言える人は強くていいですが、弱い人から削れていきます。そうなると会社を辞めちゃったり、悩んだりするからやっぱりケアは一定の割合で必要だと思うんですよね。
一般的にそのケアを会社でやっているのかといったら、大抵はやっていないと思います。今だと産業医がいて面談するとか、上司が部下と1対1で面談しますとかありますけど、突き詰めると会社の目標のためにパフォーマンスするかどうかを面談しているのであって、個人のケアという側面ではない気がしています。下手にプライベートに立ち入っちゃいけないというのもありそうですから。
だけどMogicは自分たちがやっている会社だから、ちょっとお節介だけどその人の状況を考えてケアしてあげるというのは、普通にやったらいいんじゃないかなという感覚ですね。

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一緒にはたらく人に理念や方向性をどのように伝えていますか?

山根

ご存知の通り、決起会や朝礼はありません。イベントでバァーッと伝えるより、日頃からそこはかとなく感じられるようにした方がいいかなと思って。1ヶ月に1回30分のプレゼンしたり、サイトに理念を掲げたから見てねというより、1日1分を30日で分散して伝える方がいいかなと。
となると、薄くて短いメッセージングをどう設計するかという話になります。結局、経営者がどういう時にどんなアクションしてるかに尽きると思うんですよね。「ああ、あの時にこう動く人なんだ、こういうことなんだ」というのを積み重ねていく。1ヶ月で1つのスピーチより、1ヶ月で30個以上の行動と言葉で見てもらう。
メリットは「プレゼンではいいこと言ってるけど、実際は違うじゃん」というのがないですね。プレゼンしてないからです。デメリットは見てる人によっていろいろ解釈はあるから、誤解されるかもしれないということ。そうなったら直接話したりしますけど、今ではほとんどないですね。

予想が外れたら、新しいプランを考えるチャンス!と思えれば楽しい

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自分が思うように動いてくれないと感じることはないのでしょうか?

山根

良く聞こえないかもしれないですが、あんまり期待してないんです。うまくいかない前提で仕事を依頼する感じですね。30%できたら御の字かなとか。それ以上だったら、いいじゃん!となりますし。30%のアウトプット前提でバックアッププランを考えて依頼してる気がしますね。このパターンでうまくいかなかったら、あれを使おうかなとか。
そもそも自分のところに相手の期待が100%の仕事が来たとしますよね。つらいじゃないですか。がんばって80%目指すけど50%になるかもしれないし、ということです。

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たしかにいつも成果を期待されるときつくなりますね。

山根

それを広げて考えると、誰かに仕事を頼むにあたり、同じ人でも今週は90%の出来だったけど、翌週は60%だねというのがありえると思うんです。家族の看病で疲れているかもしれませんし、花粉症でくしゃみが止まらないというのもありますね。5人のチームでやって、1人ずつパフォーマンスが毎週、毎日ばらつく。鎖は最も弱い部分で切れるといいますから、一番パフォーマンスが出てない人に合わせて、ダイナミックに周囲が変化していけばいいのかなとも思います。来週は別の人かもしれませんしね。
逆になぜ仕事を依頼する時に期待しすぎしちゃうんだろう?と聞きたいですね。よくある話は今の自分がこうできるから、今の相手も同じくできるだろうということです。でも自分と他人はこれまでの生き方が違うじゃないですか。自分の尺度を相手に投影すると、相手の良さを切り落とすことになりかねません。
自分の予想と外れたら外れたで、新しいプランを考えるチャンスきた!と思えれば、楽しいですね。

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もし会社の方針に合わないという人が出てきたら、どう考えるのでしょうか?

山根

なぜ合わないのかをいろいろ聞いてみます。それでも合わない場合は「おそらくうちじゃ、うまくその強みは活きないかもよ」と話すと思います。

やっぱり分からないことだらけ。95%は試行錯誤で学んでいった

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1人で起業されてから、2人になって、5人になって、現在30人以上です。経営スタイルは変わってくるものでしょうか?

山根

ぜんぜん違いますね。1人なら食うに困らないようにする。2人なら相手の良さを最大化させることを考える。5人ならチームとして複数のプロジェクトを並列化させることを考える。30人以上なら、カルチャーやスタイルを大事にするといった具合です。人数は少しずつ増えるので地続きに見えるのですが、それでやってしまうとおかしなことになるので、ガリっと切り替えるようにしています。

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なぜそのままのスタイルだとダメなのでしょうか?

山根

結局、経営者の頭のリソースや時間は限られてますから。状況に応じて、経営者のリソースをどこに投下すると最も効率的かは変わってくると思ってます。30人以上のチームなのに完全にプレイヤーとしての仕事メインだったら、経営者っていう肩書きは必要ないじゃないですか。

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人が増えるにつれ、どのように新しい部門を立ち上げていくのでしょうか?

山根

1つの部門を作るのは難しいですね。どう難しいかといえば、一朝一夕ではできないということです。仮にデザイナー部門を作ろうとします。経営者の目線では、これをやってほしい、あれをやってほしいとミッションを伝えたとしても、本人たちがピンときません。言葉では「分かりました」というでしょうが、体では分かっていない感じです。ですから、体感でその部門が持つべきものを分かるようにしていきます。
半年とか1年ぐらい、部門長と週1でダラダラ話します。簡単なアジェンダは作りつつ、ベースは脱線前提です。部門長が持っている世界の言葉でこちらも話したいことを伝えていく。それを続けていくと、経験的には3ヶ月ぐらいでお互い大きく感覚が変わります。さらに話していって、半年、1年でもういいよねってなれば、本当の意味で部門ができます。なぜこの部門は存在して、どうあるべきで、何をすべきかが共有されていますから、あとは彼らだけで部門の文化を作っていくんです。
トップダウンで「部門という箱を作ったから後はよろしく」ってことはしないので、大変に思われるかもしれないですね。

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アートディレクションやマーケットディレクションのように一般的な会社にはない部門名があります。これはどうやって作られたのでしょうか?

山根

逆算です。デザイナーが主軸で作ってほしいプロダクトがありそうだったので、ディレクション能力をつけてほしいなと、それでアートディレクション。ウェブディレクターならマーケティング感覚がないとやっていけないですから、それでマーケットディレクション。そういう風に身につけてほしい技能が部門名にくっついています。

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経営はどこかで習ったり、教わってきたのでしょうか?

山根

誰かに教わったことはないですね。自分が経営するなら何が足りないかを書き出して、埋めるように本を読んだり、経験を積んだりしてからスタートしました。起業直前に商工会議所のセミナーに参加したぐらいです。
これまでやってきて思ったのは、やっぱりスタートしないと分からないことだらけなんです。起業前はなぜネットや本に載ってないんだろうと思ってましたが、千差万別なので書きようがないんでしょうね。95%ははじめてから試行錯誤で学んでいった感じですね。

すべてのプロジェクトのマネージャに判断や進行をまかせている

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経営の戦略はどうやって考えているのでしょうか?

山根

日々の思いつきですね。ですが、なんとなく無意識に数週間前、数ヶ月前から気になっていることがあって、それがどこかでパチリと組み合わさってできる類の思いつきです。メンバには大局的にはこの方角は間違いないから、これをやりたいといった形で伝えます。きれいな戦略は好きじゃないので、思いつきでパッチワーク的になってると思います。

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会社は差別化というか強みや弱みの把握が大事かと思います。そこはどう考えているのでしょうか?

山根

強みや弱みは相対的なものですよね。物差しがあって、ベンチマークがあって分かる。ですから昔に大手会計会社が出している統計資料をどっさりもらったことがあります。業界ごとに何百社の損益計算書や貸借対照表を統計処理してあって、優良/普通/不振に分かれている。それを見るとIT業界でのポジション、他業界と比較したポジションが分かるので、参考にしてました。
あとは強みや弱みの分析はコンサルティング会社がよくやる手法なので、あれこれフレームワークを使ってざらっと定性的にチェックすることがたまにあります。第三者からみるとこう見えてるのかなあという緩いレベルですけど。

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eラーニングシステムLearnOや授業支援システムPhollyといった主力サービスがあります。こちらにはどのように関与されているのでしょうか?

山根

主力サービスに限らず、すべてのプロジェクトのマネージャに判断や進行を任せています。数が多いですし、実際に現場の細かな情報を知り得ないのでその方が効率的ですね。たまに横から意見をいったりしますけれど、社長の意見というより誰かがいった意見という感じなので、聞いてもらえたり、聞いてもらえなかったりです。別に気にしていません。大枠の方向性はあちこちで伝えているので、それに沿った形で取捨選択をしてるんだと思っています。

人は直線的に成長したり成果を出せるものではない

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守りということでコスト削減や見直し、リスク管理といった部分はどうでしょうか?

山根

リスクマネジメント委員会や執行役員会で議論されて決められていきます。「この費用ちょっと高いよね」「新しいツールを作ろうか」という感じで週1だったり、月1回の打ち合わせで決まっていますね。社長の独断で決めるということはなく、どのアイデアも何名かで議論したり、共有してから進んでいる感じです。

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個人にも部門にもノルマや目標がないと聞いていますが、なぜでしょうか?

山根

ノルマや目標があって、生産性が上がって、みんなが楽しければ導入しますが、長期的にはネガティブな方向にふれやすいからでしょうか。人は直線的に成長したり成果を出せるのではなく、上がったり下がったりじゃないですか。だから、それに直線的な性質を持つ目標やノルマをかけると、確率的に達成できない時が必ず出てきます。達成できないから反省して次に活かせるといえば聞こえがいいのですが、本当にそうなるのかなと疑っています。個人的には反省があまり好きじゃないので。それで、ここまでやってきました。

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経営からいえば、管理やマネジメントがしにいのではないでしょうか?

山根

もし業務フローが固定的なら、目標を作った方がいいでしょうね。目標を決めると数ヶ月間、チームはそれに向かってスタイルを硬直化させますから。良きにせよ、悪きにせよです。でも、「日々新しいことをやろう」「今日こんな情報が来たからあれやってみない」といった話だと、目標があるせいで話が通りにくくなりますね。だから、僕らが求めるやり方には目標がない方が進めやすいかなと。その代わりに1つ1つのコミュニケーションの質が大事になりそうです。

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コミュニケーションの質という部分をもう少し詳しく教えてください。

山根

誰かが誰かに仕事を依頼するとしますね。「はい、この通りにやって、書いてあるから」「わかりました」というやり方もあれば、相手のリアクションをみながら「一番大事なのってさ、ここ。外さないで。それ以外はいいよ」「なるほど、大事なところをミスるとどうなりますか」「そりゃ、完成してから手戻りがすごく多くなるからさ。未来の時間が削れるね」という話し方もできますね。前者は正しく作業をその場で依頼している、後者は未来の運用のリアリティから話している。たった数分のやり取りでも、将来に対して大きく差が出そうな気がします。
あまりリストやバックログが好きではなくて、それでチームを運営したことはありません。企画書や仕様書を作っても、あくまで最低限な感じですね。

経営者をひもとく

責任を取って、恥を忍んで突き進むという自発性があれば何とかなる

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経営者に向いている人、向いていない人はどんな人だと思いますか?

山根

一つ大事なことを挙げるとすれば、自発性ですね。結局、みんなを率いて自分で何かを始めようという気持ちは結構リスクを伴うと思うんです。自分が先頭でやるから失敗したら「ああ、失敗した」「あんなバカなことをして」って笑われるじゃないですか。そういうものを無視してやれる自発性でしょうか。
100人いて、数えてみれば受け身の人の方が多いと思います。ですが、誰か先陣を切らなきゃいけなくて、その役割を果たせるのが経営者です。自分で何かをして責任を取って、恥を忍んで突き進むという自発性があれば何とかなるのかなと。
そうじゃなくて、受け身の社長がいたとしますよね。何を言っても「うーん、それは君が決めたまえ」と言われるとイヤじゃないですか。

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確かに困りますね

山根

困りますよね。だから、みんなは心のどこかで「失敗していいから、やっぱり前に突き進んでほしい」って思ってるんですよね。前に前に引っ張っていくという部分は教えられないから、自発性は大事かなと思います。

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自発性以外に、経営者に必要なことはありますか?

山根

あとは、先を読める力でしょうか。自発性があっていっぱいアクションを取れる人でも、先を見通す精度が悪いとムダな動きが増えるじゃないですか。
よく例えるのは10メートル先に的があって視力2.0と0.1の人で同じ弓の技術を持っていたら、どっちがより命中するかという話です。同じ技術だったら2.0の人が当てますよね。的がしっかり見えているからです。
それと同じで将来に対して的が絞り切れる能力が上がらないと、みんなを路頭に迷わせやすくなる、ハーメルンの笛吹きみたいに。自分一人だったら精度が悪くてもなんとかなるけど、10人20人の先頭ともなるとそうはいかない。「最初は良かったけど、気づいたら変なところに連れていかれた」と言われかねないから、どのくらいの精度で見られるかは大事じゃないでしょうか。
実際は一つの静止した的じゃなくて、距離感の違う多数の的が同時に進行しつつ、どんどん追加されるので、ダイナミックにシフトチェンジしながら見ることになりますが。

確実に来るものを見定めて、分かる範囲できちんと絞り込む

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先を読むためにどのように考えているのでしょうか?

山根

未来って自分が見えてコントロールできそうな部分と、まったくコントロールできない部分が存在していると思うんです。だから、まずそこをきっちり分けなきゃいけなくて。
例えば、紛争はいつか起きる可能性はあるけど、いつ起こるかわからない。だけど、少子高齢化は分かりやすいですね。来年になって急に人口は増えないから。それは将来を予測しやすいという意味でコントロールしやすい土台です。そういうコントロールしやすい数字や事象の上に何が立てられるのかというのは考えます。
MogicがIT教育サービスをやっているのも、少子高齢化の日本、または先進国において人が少なくなるというのは分かっているからです。人が少ないなら、一人あたりの生産性を上げなきゃいけないって話になるわけで、教育が非常に大事になる。それはやる意義があるし、ニーズもあるということで市場は廃れなくて、緩やかに拡大していく。だから、そういう感じで確実に来るものを見定めて分かる範囲できちんと絞り込んでやることは大事にしていますね。

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自発性と先を読める力。他にもありますか?

山根

その二つは起業家に必要なことかもしれないので、あえて付け加えるとすればバランスでしょうか。やることが2つなら楽ですが、経理、財務、マーケティング、セールス、デザイン、エンジニリング、ディレクション、広報、ブランディング、採用、教育、研究開発とか要素が多いですから、バランスをとり続けるのが難しいんだと思います。どこかに偏ったら、どこかに穴が開きますから。
営業畑出身なら営業ばかりに時間を使うでしょうし、エンジニア畑出身なら開発ばかりに重心を置くはずですし。現実はうごいていくのですぐにバランスが崩れます。崩れるからいいのであって、また重心を見定めてバランスを取り直す。安定しすぎても良くないし、不安定すぎてもバラけますから、いい具合にしないとですね。
あと、ポテンシャル、チームワーク、リーダーシップ、コミュニケーション、幸せとかのバランスも重要ですし、考えることが多いので大変ではありますけど。
余談になりますが、ITの経営者なら面倒くさがりがいいかと思います。あるエンジニアがいってましたが、良いエンジニアは面倒くさがりだと。面倒くさいからプログラムを書いて楽をしようとする。できるだけコードを少なくするから、チーム全体の仕事量が減り、メンテもしやすいようです。だから、それに共感する必要があるかなと。残業してすごく時間をかけて、長いコードを書いたから評価されるのは違うかなと思います。

経営判断いろいろ

切り捨てて、ほどきつつ、状況をきれいにする

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経営は答えがわからない問題に対してトライしていくことが多いかと思います。難しい問題に対してどのように判断していくのでしょうか?

山根

分かりやすい問題であれば、現場ですぐ判断できますね。でも、だいたい経営者に相談がくる問題というのは、トレードオフを伴っているから来ているんです。こっちがよければ、あっちがへこむみたいな問題。または複数の利害関係者が入りくんでいるものですか、ごちゃごちゃしている。簡単にほどけないので、上で解決してほしいと登ってきている問題だと思うんですね。
となれば簡単です。トレードオフしなきゃいけないけど、どれもうまくやりたい、どこも失敗したくないと思っているからほどけないわけじゃないですか。だから、捨てるんです。
捨てるものは捨てて、痛みを伴うものは痛みを伴って、ばっさり切り落としたうえで、シンプルにして組み立て直すということです。

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ほどく場合もあるし、切り捨てる場合もあるということでしょうか?

山根

一緒ですね。切り捨てて、ほどきつつ、状況をきれいにする。経営者に上がってくる問題は痛みを伴うはずなんです。ただ、痛みの全体像をちゃんと把握しないで切って失敗するパターンがありますね。だから、難しい問題であるほど相談にきた人以外にも「これ、どう思う?」と聞いて情報をバーッと収集していって、多角的に見てどうもここは切り落とそうとなって、ばっさりみたいな。ばっさり切り落とすと意外とシンプルな断面になるので「じゃあ、もうこれは解決できるよね、あとはよろしく」といった感じです。

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ばっさり線を引くというところを判断されるという感じなのですね。

山根

そうですね。痛みを伴う判断は結構しづらいと思います。ですから、そこをやってあげるのが重要です。

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難しい問題ですから、やはり線を引く時に判断に迷われたりしないのでしょうか?

山根

ないですね。捨てればいいじゃんみたいな気持ちですから。迷うのかな。迷っているところを見たことありますか?

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ないですね。ですから、実際は迷われて考えている時間もあるのかと思いまして。

山根

熟考することはありますね。一週間ほどいろんな角度から情報を集めて、熟考しているときはあるんですよ。将棋の長考じゃないですけど。うーん、みたいなのはあるんですけど、何となく決まっていて、足りない情報を集めている感覚です。切り方は決まっているけど念のため考え続けている。

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迷いではなくて熟考するということですね。

山根

迷ってさらにもう1週間考えてもいいんですけど、もう1週間迷った方がリスクがあがるパターンも出てきちゃうんですよ。つまり、相談がきた段階で結構こんがらがっていて、悪化しているトレンドです。
悪化が続いている状態で、あまり長く判断を先延ばしにするとダメージが加速的に増える可能性がありますね。本当は1週間も熟考せずに早いタイミングで先手を打たないといけない時もあるので、周りが焦れてくる限界が1週間ほどという感じです。それ以上だと状況も悪化しやすいし、「あの人、判断が遅くて困るわ」ともなるし。ベストなタイミングまで引っ張って結論を出すということですね。

挑戦と模索をつづける経営

思いついたことに挑戦してあちこちに波風を立てていこう

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会社として今後どうなっていきたいという野望はありますか?

山根

もともとあんまり目標がないから、野望はないんですけど。ないんですけど毎日がワクワク、ちょっと緊張感があって、挑むような状況は常につくり続けたいと思っていますね。
新しいこと。例えば、今日こうやってインタビューを受けるじゃないですか。でも事前に質問リストも見ずに、すべてアドリブで受けますよね。これはこれでちょっと緊張感があります。それは決まったことを言うのじゃなくて、この場で瞬間的にどう切り返していくかということを考えるわけです。そんな感じで日々ハラハラできる挑戦を続けられたらいいなと思っています。
会社を経営してると意外とそれが難しくなるんですよ。ルーティンワークが増えて、こういう社長じゃなきゃいけないとか、社長だからこんな仕事はやっちゃダメ、社長はこれをやるべきとか出てきやすいですね。社長は権限を分散しなさい、大事な判断することが仕事です、仕組みを作りなさいっていわれます。
まあ、それはそれで自分なりにやりますけれど仕組みができてくると、判断することって1ヶ月に1個もなくなるんですよ。この1ヶ月に社長の部屋に相談に来た人は1人いるかいないかですから。ほぼ相談がこなくて、みんなが考えてやっている。
いいことですが、だったら社長は何をやればいいのかとなるわけです。朝8時すぎにきて夕方5時に帰る。それでもたっぷり時間があるから、ぼーっとするわけにはいかない。だから社長とか経営に関係なく、思いついたことに挑戦してあちこちに波風を立てていこうということですね。1人の人間としてワアワア騒いで周りに迷惑がられながら、巻き込んだり巻き込めなかったりする感じです。

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なるほど、起業してから会社として安定してくる。その上でさらに上のレベルで何かできることを模索されているということがよく分かりました。今回はさらにロングになりましたが、長時間のインタビューをありがとうございました!

山根

こちらこそ、ありがとうございました!

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